事業を始めるにあたり、開業届を出すか悩む人は多いです。
この記事では、開業届を出すデメリット、開業届を出さないデメリットについて解説します。記事を読めば、開業届を出すべきか判断できるようになるでしょう。
開業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」です。開業届を出すと失業手当(失業保険)の受給資格を失います。一方で、開業届を出さないと青色申告特別控除を受けられず、社会的信用も低くなります。事業目的と収入の見込みを考慮して、開業届の提出を決めましょう。
開業届を出すデメリット
開業届を出すデメリットは、以下のとおりです。
- 失業手当(失業保険)の受給資格を失う
失業手当(失業保険)の受給資格を失う
失業手当(失業保険)とは、正式には雇用保険の基本手当のことです。
開業届を出すと失業状態ではないと判断され、失業手当(失業保険)の受給資格を失います。失業手当(失業保険)を受け取りたい場合は、開業する前に条件を確認してください。
失業手当(失業保険)を受け取る資格は、雇用保険に加入している期間に基づきます。雇用保険の加入期間が短い場合や、退職後すぐに開業した場合は、給付を受けられません。
開業届を出さないデメリット
開業届を出さないデメリットは、以下のとおりです。
- 青色申告特別控除を受けられない
- 事業用の銀行口座の開設が難しい
- 事業資金の借り入れがしにくい
- 公的支援制度の利用が制限される
- 社会的信用が低下する可能性がある
青色申告特別控除を受けられない
開業届を出さない場合は最大65万円の青色申告特別控除を受けられません。青色申告制度を利用するためには、開業届と合わせて「青色申告承認申請書」を所轄の税務署に提出する必要があります。青色申告を行わない場合は、特別控除や繰越控除といった税制上のメリットを享受できません。
控除を受けられないと、節税の機会を失うことになります。個人事業主が賢く節税するためには、青色申告を選択することが重要です。
事業用の銀行口座の開設が難しい
開業届を出さない場合は事業の信頼性が低くなるため、事業用の銀行口座の開設が難しいです。
事業用の銀行口座を開設すると、個人と事業の財務を区別して管理できます。正確で効率的な帳簿管理をするためにも、事業用の銀行口座の開設は重要です。
事業資金の借り入れがしにくい
開業届を出さない場合は正式な事業主としての記録がなく信用が低いため、事業資金の借り入れがしにくいです。
事業資金を借り入れる際、銀行や金融機関は事業計画や収益性を重視しています。信用情報が不足していると、事業資金の借り入れ審査で不利になります。借り入れには事業計画や収益見込みの詳細な説明が求められるため、準備に時間と労力が必要です。
事業が成長した際に円滑な資金繰りを行うためにも、開業届の提出をおすすめします。
公的支援制度の利用が制限される
開業届を出さない場合は、国や地方自治体が提供する補助金や助成金の申請資格を得られません。多くの公的支援が開業届を出した企業や個人事業主を対象としているためです。
開業届を出さない場合は、ビジネスを始める際の支援プログラムや事業承継、事業再生に関する支援制度の対象外です。公的支援は事業の成長や安定運営に役立つため、利用が制限されると大きな損失となります。
社会的信用が低下する可能性がある
開業届を出さない場合は法的なビジネスの実体がないと判断され、社会的信用が低下する可能性があります。
開業届の未提出は、金融機関の融資やクレジット審査を受ける際に信用情報で疑われる要因の1つです。取引先との信頼関係の構築においても不利になるでしょう。ビジネスチャンスを逃すリスクにもつながります。
税務署からの信用度にも影響するため、開業届がないと税務調査の対象になりやすいです。法人化を目指す際には過去の実績が不透明なことにより、法人化した後の信用の構築に悪影響を与える可能性があります。
開業届を出す判断基準
開業届の提出を検討する際には、以下の2つの基準を意識してください。
- 継続的に個人事業を行う意図があるか
- 事業から所得を得る見込みがあるか
継続的に個人事業を行う意図があるか
開業届を出す判断基準の1つは、継続的に個人事業を行う意図があるかどうかです。継続的に個人事業を行う意図がある場合には、開業届の提出を推奨します。
継続的に個人事業を行うということは、定期的な事業活動を通して収入の成長や安定を目指しているということでもあります。市場のニーズを分析し、事業展開を計画することも重要です。
長期的に収益を上げるための明確な目的と計画がある場合、継続的に事業を行う意図があると判断できます。
事業から所得を得る見込みがあるか
事業から所得を得る見込みがあるかどうかも、開業届を出す基準として重要です。所得を得る見込みは、以下の要素に影響されます。
- 収益モデルが構築されている
- 収入が発生する見込みの時期が明確である
- 市場調査を行い、需要がある
- 競争分析を行い、競合に勝てる特徴や戦略がある
- 販売計画やマーケティング戦略が具体的である
- 財務計画が安定しており、資金繰りができる
- 事業を始めるための初期投資の見積もりがある
- 収益が安定するまでの生活費や運転資金の確保がある
各要素を理解したうえで、事業計画の実現可能性を精査することが不可欠です。要素が整えられていれば、事業が所得を生む見込みは格段に向上します。
事業を始める前に知っておきたい事実
開業届を出す出さないに関わらず、事業を始める前に知っておきたい事実があります。
- 自分が家族の健康保険の扶養から外れる場合がある
- 会社に副業がバレるリスクがある
- 帳簿の記帳・保存義務が発生する
- 所得税・消費税の課税対象になる場合がある
自分が家族の健康保険の扶養から外れる場合がある
自分で稼いだ収入が一定額以上になった場合に、家族の健康保険の扶養から外れます。収入の基準額は法改正で変動するため、扶養の範囲を確認してください。
扶養を外れた場合、国民健康保険への加入が必要になり、保険料の負担が発生します。扶養の対象は、年間を通じた収入や労働時間などの条件で決まります。
扶養から外れる場合は、個人の財政管理や家計への影響を考慮しましょう。
会社に副業がバレるリスクがある
住民税の通知により、会社に副業がバレるリスクがあります。SNSやウェブサイト上での活動、社内での会話から、副業がバレるケースもあるでしょう。
会社の規定で副業が禁止されている場合、状況によっては解雇や懲戒処分の対象となる可能性があります。会社の方針を確認し、事前に相談を行うことで、無用なトラブルを避けられます。
帳簿の記帳・保存義務が発生する
事業所得、不動産所得、山林所得がある場合は、確定申告の必要がない場合でも帳簿の記帳・保存義務が発生します(国税庁「個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について」)。
帳簿の記帳では、財務状況や経済活動を正確に帳簿に記録します。商品の販売やサービスの提供ごとに、記帳が必要です。記帳を怠った場合、税務調査の際に問題になります。
青色申告を選択した事業主は、複式簿記での記録が必要です。記帳が適切に行われていれば、税金の計算が正確になり、確定申告もスムーズに進められます。
所得税・消費税の課税対象になる場合がある
事業から得た収入が一定額を超えた場合は、所得税・消費税の課税対象になます。
- 所得税:「事業主で事業収入が年間48万円以上」や「給与所得者で事業収入が年間20万円以上」
- 消費税:年間の課税売上が1,000万円以上
得られた収入に対して所得税の確定申告および納税が必要です。課税対象者の確定申告は義務であり、適切な申告と納税がなされない場合には罰則を受けます。自分の収入が課税対象であるかを理解し、必要な手続きを行うことが重要です。
開業届に関するよくある質問
適切に開業届を提出できるように、以下の質問に回答します。
- 副業の場合も開業届は必要?
- 開業届を提出後に廃業した場合は?
- 開業届はいつまでに出すべき?
- 提出期限を過ぎた場合の対応は?
- 開業届を提出すると税務調査のリスクは高まる?
副業の場合も開業届は必要?
副業でも年間所得が20万円以上なら開業届が必要です。主な収入が会社からの給与であっても、副業で得た収入は事業所得として申告する必要があります。継続的に収入がある副業は事業とみなされるため、開業届を提出しましょう。
開業届を出することで青色申告特別控除を受けられるため、税制上のメリットが大きいです。社会的信用も増すため、銀行融資を受けやすくなるなどの利点もあります。
開業届を提出後に廃業した場合は?
廃業した場合にも「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出し、税務署に廃業の旨を報告することが必要です。報告しないと、事業が続いているものとみなされ、無駄な税金を支払う必要が出てくる可能性があります。
「個人事業の開業・廃業等届出書」の提出期限は、廃業した日から1カ月以内です。廃業届を提出しないと税務署から問い合わせが来る可能性もあるため、廃業した際は速やかに対応しましょう。廃業届提出後、青色申告の承認も取り消されます。
開業届はいつまでに出すべき?
開業届は、開業から1カ月以内に提出するのが望ましいです。未提出でも罰則はありませんが、青色申告の特典を受けるためには提出時期に注意しましょう。速やかに提出することで、手続きがスムーズに進み、余計なトラブルを回避することができます。
青色申告を希望する場合、開業から2カ月以内に開業届を提出する必要があります。多くの場合、青色申告承認申請書と同時に開業届を提出するのが一般的です。提出が遅れても罰則はありませんが、早めに提出するように心がけましょう。
提出期限を過ぎた場合の対応は?
開業届は、提出期限を過ぎても提出できます。提出が遅れても罰則はありませんが、税務上の不利益を被る可能性に注意が必要です。開業日から1カ月を過ぎてしまった場合でも、できるだけ早く税務署に届出を行いましょう。
提出が遅れた理由が正当であれば、税務署に申告することで考慮される場合があります。具体的な対応については税務署に相談し、確認しましょう。提出の遅延による罰則の可能性は低いですが、十分に注意する必要があります。
開業届を提出すると税務調査のリスクは高まる?
開業届を提出すること自体が税務調査のリスクを高めるわけではありません。税務調査はランダムに行われる場合が多く、正しく開業届を提出することで、むしろ税務署との信頼関係を築けます。
税務調査のリスクは主に所得の申告内容や取引の透明性に依存するため、適切な記帳と確定申告を行うことが大切です。収入や支出を正確に記録し、領収書や請求書を整理しておきましょう。正確な申告や適切な税務処理を行えば、税務調査のリスクを低減できます。
開業届を提出しない場合には、無申告状態となり後で問題が発生する可能性が高いです。突然の税務調査で過去の申告漏れが指摘されると、多額の追徴課税が発生する恐れもあります。税務署からの信頼を獲得し、税務調査の対象となるリスクを減らすためにも、開業届は遅滞なく提出しましょう。
まとめ
開業届の提出は、個人事業を正式にスタートさせるための重要な手続きです。しかし、提出することによって生じるデメリットが存在するため、慎重に検討する必要があります。
- 失業手当(失業保険)の受給資格を失う
一方で、開業届を提出しないことによるデメリットもあります。
- 青色申告特別控除を受けられない
- 事業用の銀行口座の開設が難しい
- 事業資金の借り入れがしにくい
- 公的支援制度の利用が制限される
- 社会的信用が低下する可能性がある
自身の事業に対する継続の意志や所得見込みを考慮し、開業届の提出を判断することが重要です。適切な判断を下すことで、事業の将来性を高めるとともに、税務上のリスクを適切に管理できます。