フリーランスには開業届の提出が必要か?|開業届を提出するメリット・デメリット

フリーランスには開業届の提出が必要か?|開業届を提出するメリット・デメリット

開業届は必要なのか、フリーランスとして活動するうえで疑問を持つ人は少なくありません。この記事では、開業届の基礎知識と、提出によって生じるメリット・デメリットを解説します。

最後まで読めば、フリーランスが開業届を提出する必要性とメリット・デメリットが明確になります。開業届を提出し、節税や社会的信用などの利点を手に入れて、正式に個人事業主として事業を開始しましょう。

フリーランスが知るべき開業届の基礎知識

フリーランスが知るべき開業届の基礎知識

フリーランスとして事業を開始する際は、開業届の提出が重要です。開業届に関する基礎知識を以下にまとめます。

  • 開業届とは
  • 開業届を提出する意味
  • 開業届の提出期限と提出方法
  • 白色申告と青色申告の違い

フリーランスとして成功するためには、開業届の基礎知識を押さえることが重要です。適切な手続きを通して、フリーランスとしての自由な働き方と、個人事業主としての堅実な事業運営を実現しましょう。

開業届とは

開業届とは、個人が事業を始める際に税務署に提出する届出書です。開業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」です。税務署に届け出ることで法的に個人事業主としての地位を確立できるため、定められた期限内の提出を推奨します。後述する白色申告や青色申告で確定申告を行う際の前提条件として使用されます。

» フリーランスと個人事業主の違いを解説

開業届を提出する意味

開業届を提出することの法的意義

フリーランスが開業届を提出することは、個人事業主としての事業の開始を公的に宣言することを意味します。税務上の義務を果たし、税金を納めるための出発点です。法的な権利と責任が明確になり、自信を持って事業を運営できる利点があります。国や自治体からサポート受けるための基礎にもなります。

開業届は職業や事業の内容、所得の種類を公式に記録する法的書類でもあります。金融機関での融資申込みなど、事業を証明する際に利用可能です。開業届の提出は、法的な観点だけでなく、事業をスムーズに進めるうえでも重要な手続きです。

フリーランスとして働くには、国民健康保険や国民年金への加入手続きも必要です。将来にわたって生活に大きな影響があるため、社会保険をはじめ、公的制度に対する理解が欠かせません。

開業届の提出期限と提出方法

開業届の提出期限は、事業を始めた日から1ヶ月以内です。しかし、開業届を出さなくても罰則はありません。提出期限が過ぎてしまった場合でも、開業届を提出すれば受理されます。

開業届には複数の提出方法があり、税務署の窓口、郵送、電子申告(e-Tax)、開業支援サービス(freee開業など)での提出が可能です。開業届は、一番簡単で手間がかからない「開業支援サービス」で提出する方法がおすすめです。

収入を増やす目的で継続的に事業を行う場合は必ず提出してください。開業届とあわせて「青色申告承認申請書」を提出することで青色申告の選択が可能になり、青色申告特別控除などの税務上のメリットを受けられます

» 開業届の書き方と出し方

» 開業届のオンライン提出を解説

» 開業届と青色申告の提出方法と注意点

白色申告と青色申告の違い

白色申告と青色申告は、個人事業主が利用できる税務上の申告方法です。以下にそれぞれの違いをまとめます。

白色申告青色申告
特別控除なし最大65万円
帳簿の記載簡易な方法による記帳帳簿が必要
損益通算できるできる
純損失の繰越控除なし最大3年
減価償却資産の一括経費計上10万円未満30万円未満
家事按分事業利用比率
50%以上で可能
可能
承認申請不要必要

青色申告のほうが税務上の優遇措置があり節税できるため、青色申告を選択するのがおすすめです。

純損失の繰越控除とは?

純損失とは、事業所得、不動産所得、譲渡所得、山林所得の4つの所得の損失の金額のうち、損益通算(損失と利益の全体の計算)をしても控除しきれない金額のことです。正確な定義は異なりますが、純損失は赤字の金額と捉えるとイメージしやすいでしょう。青色申告では最大3年、前年の純損失を繰り越して控除することができます。

減価償却資産の一括経費計上とは?

減価償却資産とは、経年劣化する資産のことです。例えば、事業で使用する建物や車、備品などが該当します。一括経費計上には上限があり、青色申告の方が白色申告より有利です。減価償却資産の金額が上限を超える場合は、年を跨いで分割して経費にする(減価償却する)必要があります

家事按分とは?

家事按分とは、事業とプライベートの両方で使用しているものの費用(家賃や水道光熱費など)について、事業利用比率の分だけ経費に計上することです。青色申告では家事按分をするにあたって事業利用比率の制限がないため、白色申告よりも家事按分による節税がしやすいです。

» 白色申告と青色申告の違いを解説

フリーランスが開業届を提出するメリット

フリーランスが開業届を提出するメリット

フリーランスが開業届を提出することで得られるメリットを以下に示します。

  • 節税しやすくなる
  • 社会的信用を得られる
  • 事業用の銀行口座を開設できる
  • 補助金や助成金の申請で有利になる

メリットを活かすことで、経済的にも社会的にも、より安定した事業運営ができるようになります。有効に活用しましょう。

節税しやすくなる

開業届と青色申告承認申請書を提出して青色申告を選択することで、フリーランスは節税がしやすくなります。所得控除や経費計上を活用することで節税につながります。

青色申告特別控除を利用することにより、最大65万円の所得控除が可能です。必要経費を計上することで、税負担を減らす効果が期待できます。さらに、事業で赤字が出た場合は、将来の所得から差し引くこと(純損失の繰越控除)が可能で、納税額を減らせます。

家事按分を含む経費計上や青色事業専従者給与(家族を従業員として雇用して支払う給与)、小規模企業共済への加入も節税対策として効果的です。小規模企業共済に加入することで、退職金を積み立てる際の所得控除対象になり、納税額を抑えられます。

フリーランスは開業届を提出して賢く節税することで、多くの経済的なメリットを受けられます。自分の事業に合った節税方法を知り、効率的に税負担を軽減しましょう

社会的信用を得られる

社会的信用を得ることは重要です。フリーランスとしての信頼性を高めるために、事業の開始を正式に届け出るという大きな一歩を踏み出しましょう。

開業届を提出することで、顧客や取引先からの信用が得られやすくなり、ビジネスチャンスが広がります。正式に事業主として認められることにより、取引の際の信頼性が高まります。

事業に関する各種証明書の発行がスムーズに行えることもメリットです。将来的に他の事業主や企業との人的ネットワークを築くうえで有利に働きます。事業をさらに成長させるためにも、社会的信用の獲得は欠かせません。

事業用の銀行口座を開設できる

銀行口座を開設できる

事業用の銀行口座を開設する際にも、開業届が役立ちます。開業届を提出することで事業主としての信頼性が高まり、個人事業主専用の口座を開設可能です。私用の口座と分けて事業用の口座を使用することで、収支管理が容易になり、経理が簡単になるだけでなく、顧客からの支払いの受け取りもスムーズに行えます。

会社員であれば、給与の受け取り口座と私用の口座が同じ人も多く、仕事や生活においても困るケースはほとんどないでしょう。しかし、所得の確定申告が必要になるフリーランスにとっては、事業用の口座がないと経理が余計に煩雑になってしまいます。私用口座の1つを事業用として運用することも可能ですが、社会的信用の面でも事業用口座の開設がおすすめです。

事業用口座を開設して運用することで、経費の管理が明確になり、将来的に法人化することになったときも、法人化への移行手続きがスムーズに進むでしょう。フリーランスにとって、開業届の提出と事業用口座の開設は、事業運営をスムーズに行うために欠かせません

補助金や助成金の申請で有利になる

フリーランスになると、補助金や助成金の申請対象になる機会が増えます。開業届を提出することにより、正式に事業主として認められ信頼性が高まるため、補助金や助成金を受ける際の審査に好影響を与えられます

公的な支援プログラムの利用資格を広げることにもつながります。開業届を提出していることによって、事業計画や収支予測を提出する際も、事業への真剣な姿勢を示すことが可能です。

特定の業界団体への加入が容易になり、関連した助成金を受けやすくなることもメリットです。開業届の提出は経済的な支援を受けるうえで有効な手段と言えるでしょう

フリーランスが開業届を提出するデメリット

フリーランスが開業届を提出するデメリット

フリーランスが開業届を提出するデメリットは以下のとおりです。

  • 社会保険や扶養に影響がある
  • 帳簿記入や確定申告の手間が増える
  • 税務調査のリスクが高まる

デメリットをしっかり理解し、対処方法を考えておく必要があります

社会保険や扶養に影響がある

開業届を提出することで、社会保険や扶養に影響があるため、慎重な判断が必要です。会社員から独立してフリーランスになった場合、以前は会社が半額負担していた健康保険や年金の保険料を、全額自己負担することになります

収入が増えると保険料も比例して増加するため注意してください。多くの場合、特別徴収(給料から天引きする方法)から普通徴収(自分で納税する方法)に切り替わるため、切り替わった後は自分で資産管理と保険料支払いをする必要があります。

家族構成によっては保険負担が増えるため注意が必要です。扶養家族の条件を満たさなくなり扶養から外れることも考えられます。例えば、健康保険から国民健康保険に変わった場合、国民健康保険には扶養の制度がないため扶養から外れます。扶養家族を持つ場合、収入限界額を超えないかも確認してください

社会保険料の増額は手取りを減らす原因になります。社会保険や扶養に影響するデメリットを理解して、適切な対策を講じることが重要です。

» フリーランスの保険を解説

帳簿記入や確定申告の手間が増える

開業届を提出することで、帳簿記入や確定申告の手間が増えます。開業届を提出した後は、日々の収入と支出を詳細に記録してください。記録を帳簿として残すことで、税金の正確な計算と申告に役立ちます。青色申告を選択した場合、帳簿を7年間保存しなければなりません。

事業内容や所得・控除の種類にもよりますが、確定申告では多くの書類の準備が必要であり、提出までには手間と時間がかかります。特に青色申告で簿記の知識がなく、帳簿記入や確定申告に自身がない場合は、専門家にアドバイスを求めましょう

フリーランスとして事業を運営するには、帳簿記入や確定申告の手間からは逃れられません。帳簿記入や確定申告に対する理解を深め、適切に対応することが大切です。

» フリーランスの確定申告を解説

税務調査のリスクが高まる

帳簿記入ミスや不適切な税務申告をしてしまった場合、税務調査のリスクが高まります。確定申告で経費計上の誤りや収入・所得の過少申告があると、監査対象になるためです。故意か過失かを問わず、税務違反と疑われた場合は調査が行われます。結果によっては追徴課税(本来の納税額の差額を支払うこと)や罰金が発生します。

フリーランスとして開業した後は、帳簿記入ミスや申告誤り、納税の遅延・未払いが発生しないよう、経理や税務に細心の注意を払ってください

» インボイス制度を解説

まとめ

まとめ

フリーランスとしての自由な働き方を始めるうえで、開業届の提出が最初の一歩です。デメリットを上回る多くのメリットがあるため、提出して損はありません。

開業届を提出するメリットとしては、以下が挙げられます。

  • 節税しやすくなる
  • 社会的信用を得られる
  • 事業用の銀行口座を開設できる
  • 補助金や助成金の申請で有利になる

一方で、社会保険の自己負担の増加や確定申告の手続き、税務調査のリスクが増大するなどのデメリットも存在します。

フリーランスとして活動したい方は、開業届の提出を前向きに検討してください。事業をスムーズに運営するうえで役に立つでしょう。