- 「源泉所得税の納期の特例」とは?
- 「源泉所得税の納期の特例」にはどんなメリットがあるのか
- 「源泉所得税の納期の特例」の適用条件や申請手続きを知りたい
源泉徴収義務者には、雇った人に支払う給与や報酬・料金に応じて、所得税および復興特別所得税を差し引いて国に納税する義務があります。通常、源泉所得税の納税は毎月行わなければなりません。
ですが「源泉所得税の納期の特例」という制度によって、源泉所得税の納税を年2回に変更することができます。源泉所得税の納税を年2回に変更することで、作業コストの削減と資金運用の改善が可能です。この記事では、「源泉所得税の納期の特例」の適用条件からメリットや申請手続きまで徹底的に解説します。
記事を読めば「源泉所得税の納期の特例」に対する理解が深まり、スムーズな申請手続きを通して、納期の特例によるメリットを享受できるようになります。
源泉徴収とは、給与や退職金にかかる税金を雇用者が代わりに給与などから差し引いて納付する仕組みのことです。本来であれば国民一人ひとりが税金を納付するべきですが、雇用者が一括で納税してくれます。雇用者は源泉徴収義務者の役割を担います。
「源泉所得税の納期の特例」の基礎知識
「源泉所得税の納期の特例」とは、源泉所得税を7月10日と1月20日の年2回にまとめて納税できる制度のことです。適用条件を満たす源泉徴収義務者にとって、納期の特例は税務の作業コストを削減し、事業の資金繰りに役立ちます。納期の特例による納付時期の延長は、事業運営において大きな助けとなります。
納期の特例を受けるためには、事前に税務署へ申請しなければなりません。適用条件を満たし続ける必要もあります。適用条件から外れた場合は、取り消しの手続きが必要です。
「源泉所得税の納期の特例」の適用条件
「源泉所得税の納期の特例」は、以下の条件を満たす源泉徴収義務者に適用されます。
- 給与や報酬・料金を支払っている人員が常時10人未満であること
- 滞納や納付遅延をしていないこと
- 申請書を所轄の税務署に提出して承認を得ていること
常時10人未満の定義は、繁忙期を除く時期(平常時)に10人未満であることです。繁忙期のみ臨時で雇い入れた人数を含めて10人以上となる場合は、常時10人未満に該当します。常雇か日雇かに関わらず、繁忙期を除く時期に10人以上となる場合は、納期の特例を適用することはできません。
滞納や納税遅延があると承認を受けられなかったり、承認を取り消されたりすることがあるため、注意してください。
申請手続きについては、以下の内容を本記事で後述します。
- 申請書の正式名書と入手方法
- 所轄の税務署を調べる方法
- 申請書の提出期限と提出方法
- 承認を得ているかどうかの判断方法
国税庁「給与等の支払を受ける者が常時10人未満であるかどうかの判定」
「源泉所得税の納期の特例」の対象となる所得税
「源泉所得税の納期の特例」の対象となるのは、以下の所得税に限られます。
- 給与や退職金から源泉徴収した所得税および復興特別所得税
- 弁護士や税理士の報酬・料金から源泉徴収した所得税および復興特別所得税
源泉徴収の対象に含まれる所得であっても、納期の特例の対象外となる所得については、通常と変わらず支払った月の翌月10日までに納付しなければならないため注意してください。
会社員は、源泉徴収された状態で給与や賞与を受け取ります。1年間の源泉徴収額を調整し、所得税の過不足を精算するために年末調整が欠かせません。退職金も受け取り時に一時所得として源泉徴収されますが、以下のいずれかの条件に当てはまる場合は確定申告が必要です。
- 「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない
- 医療費控除や寄附金控除の適用を受ける
「源泉所得税の納期の特例」のメリット
「源泉所得税の納期の特例」のメリットは以下のとおりです。
- 税務の作業コストを削減できる
- 手元の資金を一時的に増やして短期的な資金運用に使える
納期の特例により納税が年に2回で済むため、毎月の税金の計算や納税にかかる作業コストが削減できます。中小企業や個人事業主は人員が限られているため、作業コストの削減は大きなメリットとなるでしょう。納税回数が減少することで、作業コストの削減だけでなく、納税申告におけるミスの低減にもつながります。
特例の適用により納税タイミングが先に延びるため、手元の資金を一時的に増やせます。一時的に増えた手元の資金は、短期的な資金運用にも使えるため、事業の資金繰り改善に効果的です。
「源泉所得税の納期の特例」のデメリット
「源泉所得税の納期の特例」のデメリットは以下のとおりです。
- 常に適用条件を満たし続ける必要がある
- 支払う給与や報酬・料金が変動すると、納税額の見積りが困難になる
適用条件は「給与や報酬・料金を支払っている人員が常時10人未満であること」ですが、「滞納や納付遅延をしていないこと」も重要です。滞納や納付遅延があると、承認が取り消される可能性もあります。
「源泉所得税の納期の特例」の申請手続き
「源泉所得税の納期の特例」の申請手続きは、以下の手順で行いましょう。
- 「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を入手する
- 項目に沿って記入し、税務署に提出する
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を入手する
「源泉所得税の納期の特例」の申請を行うには、まず必要な申請書を入手してください。申請書の正式名称は「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」です。
申請書は最寄りの税務署か、国税庁のウェブサイト(国税庁「A2-8 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」)からのダウンロードにより入手可能です。申請書類は無料で配布されているため、入手に費用はかかりません。ダウンロード後は適宜、電子データ上で入力するか、印刷して紙媒体で記入を進めてください。
項目に沿って記入し、税務署に提出する
申請する際は、各項目に記入する内容を正しく理解したうえで適切に記入します。
提出先は、対象の税務署を間違えないように事前に確認しておきましょう。自分が住んでいる地域の税務署は、国税庁のウェブサイト(国税庁「税務署の所在地などを知りたい方」)で簡単に確認することができます。
提出期限は特に定められていません。申請書を提出した日の翌月に支払う給与などから、納期の特例が適用されます。申請書を提出した月の翌月末日までに税務署長から通知がなければ、承認を得ていることになります。
例えば2月に申請書を提出した場合、納期の特例の適用は3月に支払う給与などからです。2月に支払う給与などには納期の特例が適用されないため、注意してください。
提出方法は税務署の窓口、郵送、電子申告(e-Tax)から選べます。電子申告(e-Tax)には事前準備が必要であるため、準備が整っていない方には税務署の窓口か郵送での提出がおすすめです。
「源泉所得税の納期の特例」を受けた後の手続き
「源泉所得税の納期の特例」を受けた後の手続きについて、以下の内容を順番に解説します。
- 年2回にまとめて源泉所得税を納付する
- 納付の特例の適用条件に該当しなくなった場合は速やかに手続きをする
納期の特例を適用していても所得税額の計算方法に変更はないため、従来通り納税額を計算してください。
年2回にまとめて源泉所得税を納付する
源泉所得税は給与などの支払いの度に計算し、翌月10日までに納付するのが義務です。しかし、納期の特例により、7月10日と1月20日の年2回の納付となります。
- 7月10日:1月から6月までに支払った所得から源泉徴収した所得税の納付期限
- 1月20日:7月から12月までに支払った所得から源泉徴収した所得税の納付期限
例えば2月に申請書を提出して3月から適用された場合、3月から6月までに支払った所得から源泉徴収した所得税を7月10日までに納付してください。納付期限日が土日祝日に当たる場合は、休日明けの日が納付期限です。徴収高計算書の様式が一般用から納期特例用に変わるためご注意ください。
国税庁「別紙4 給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(納期特例分)の様式及び記載要領」
源泉所得税の納付方法には税務署や金融機関の窓口での納付手続以外にも、コンビニ納付やキャッシュレス納付による納付手続きがあります。納付忘れや納付額間違いを防ぐために、正確な計算と記録の管理を実施してください。適切な手続きによって、スムーズな税務処理の実現が可能です。
納付の特例の適用条件に該当しなくなった場合は速やかに手続きをする
納付の特例の適用条件に該当しなくなった場合には、速やかに税務署に連絡し手続きを行ってください。
納付の特例の取消しには「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を税務署に提出する必要があります。申請書は最寄りの税務署か、国税庁のウェブサイト(国税庁「A2-9 源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなった場合の届出」)からのダウンロードにより入手可能です。
届出書の提出により、納付の特例の適用状態から通常の納税へと戻ります。例えば3月に届出書を提出した場合、1月から2月支給分の所得税は4月10日までに「納期特例分の徴収高計算書」を使用して納付し、3月支給分の所得税以降は翌月10日までに「一般用の徴収高計算書」を使用して納付する通常の納税へと戻ります。
国税庁「別紙3 給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(一般用)の様式及び記載要領」
国税庁「別紙4 給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(納期特例分)の様式及び記載要領」
従業員数が減少して、再び適用条件を満たすようになった場合は、改めて納期の特例の申請が可能です。納期の特例を受けている事業者は、従業員数に注意を払う必要があります。従業員数を定期的に確認することで、変動があった際、迅速に対応することが可能です。
まとめ
「源泉所得税の納期の特例」は、源泉所得税の納付を毎月から年2回に変更することができる制度です。従業員が常時10人未満である源泉徴収義務者が対象であり、申請手続きをすることで適用されます。
「源泉所得税の納期の特例」のメリットは以下のとおりです。
- 税務の作業コストを削減できる
- 手元の資金を一時的に増やして短期的な資金運用に使える
「源泉所得税の納期の特例」のデメリットは以下のとおりです。
- 常に適用条件を満たし続ける必要がある
- 支払う給与や報酬・料金が変動すると、納税額の見積りが困難になる
申請手続きでは「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に提出する必要があります。提出期限は特に定められていません。提出方法は税務署の窓口、郵送、電子申告(e-Tax)から選べます。
納付の特例の適用条件に該当しなくなった場合は速やかに手続きをしてください。「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を税務署に提出する必要があります。逆に、再び適用条件を満たすようになった場合は、改めて納期の特例の申請が可能です。
「源泉所得税の納期の特例」について、正しく理解したうえでメリットを有効活用しましょう。